2022年10月30日、「歯を残すための総合力をつける!口腔を診る、全身を知る、人を観る(後編)」のテーマのもと、第39回学術大会同様WEB(Live配信)開催されました。今年もWEB開催でしたが、まずは無事に今年も開催されたことを嬉しく思います。

午前の部「オーラルヘルスが大腸の健康を守る」山口トキコ 先生 東京都港区 マリーゴールドクリニック院長 日本大腸肛門病学会専門医,博士(医学)

山口トキコ先生には「オーラルヘルスが大腸の健康を守る」というテーマでご講演していただきました。一見、口腔と肛門は関係ないと感じますが、消化管の入り口と出口であり繋がりがないわけではないとご講演が始まりました。口腔内は細菌が常にいる環境で大腸も1000種類、100兆個の細菌が常在していて腸内フローラを形成しています。口腔内細菌、特に歯周病源性細菌が糖尿病や動脈硬化などの全身疾患に影響を及ぼすのと同じように腸内フローラのバランスによって全身疾患に影響を及ぼしていることを知りました。特に腸内フローラを構成している日和見菌、善玉菌、悪玉菌のうちの善玉菌の割合が減少すると肥満、糖尿病、動脈硬化、大腸がん等の割合が高くなります。特に肥満、糖尿病、動脈硬化は歯周病との相関があると言われています。そのために善玉菌を増やして腸内環境を整えることは非常に大切なことであると学びました。また腸内環境を整えるためには身体に善玉菌を含むものを摂取するプロバイオティクスと善玉菌の栄養源となるものを摂取するプレバイオティクスと合わせたシンバイオティクスという食事のとり方が重要になります。具体的にはビフィズス菌や酪酸産生菌を含むものを摂取し、食物繊維を取ることで短鎖脂肪酸が増えてそれが善玉菌の栄養源になり腸内環境が整えられていきます。
またご講演に出てきた脳腸相関(脳と腸は自律神経系やホルモン・サイトカインなどを介して密接に関連している)という言葉を初めて知りました。また腸-唾液腺相関というのもあり、食物繊維を摂取することで唾液中の分泌型IgAを増加させることがわかっているそうです。この分泌型IgAは唾液中の免疫グロブリンの約7割をしめており免疫機構の大事な役割をしています。
歯科の臨床において食事指導時に今回のご講演での情報は非常に有益なものだと感じました。
また歯周病に密接に関連するP.gingivalisやF.nucleatumの細菌は腸管局所で腸内細菌を介して炎症をマーカー上昇させることもわかってきているそうです。そのことにより食道がんのリスク上昇や関節リウマチの悪化など全身疾患にも具体的にどのように作用して影響しているのか知ることができました。歯周病の炎症をコントロールすることで糖尿病を改善されることはよく知られています。同じように歯科臨床で歯周病のコントロールをすることで、がんや関節リウマチなどの全身疾患を予防できるのではないかと思いました。
今回、山口先生のご講演を拝聴させていただいたことで、腸内環境と口腔内の影響のことだけでなく、痔や便秘からの関係性も知ることができました。それによって患者さんへの食事指導する際のアプローチの方法も変えられると思いました。
今回のご講演をきっかけに明日からの臨床に活かして精進していきます。
来年は第40回の記念大会です。対面形式での開催をするとお話がありました。その場で参加された方々と新しい情報を共有し、いろいろディスカッション出来ることを楽しみにしています。

報告者 埼玉県川口市 かめだ歯科医院 勤務 久保寺 理人

 

午後の部 「歯の健康を保つブラッシング指導と、それを効果的にする食事指導のあり方ーこれまでの歩み、これからの課題ー」

神奈川県横浜市でご開業されてる丸森英史先生がご講演してくださいました。また、丸森先生の歯科医院にご勤務されている成井香歯科衛生士が「患者さんの“まなざし”、歯科衛生士の“まなざし”」という演題で、ご講演してくださいました。

ご講演の中で丸森先生は、TBIを行なっていく上での行動変容の難しさを長年にわたる実体験の中からお話してくださいました。その中で患者さんの立ち位置を知ることからはじめ、耳を傾け、それを客観的に記録して臨床に生かしていくことの大切さを、また患者さん自身が習ったことを応用し、波及させていく過程を患者さん自身が自立してきた証として大切にしていること、そして1〜10まで教えるのではなく、患者さんがうまくコツを発見していくようサポートしていくような関わり方が大切なことなどをポイントとしてお話してくださいました。
その実践として成井歯科衛生士が実際の臨床を通してご発表してくださいました。
成井歯科衛生士は「患者さんの“まなざし”、歯科衛生士の“まなざし”」というご発表の中で、「どのように指導すれば患者さんに伝わり、磨けるようになるのだろうか?」「どうしたら上手なブラッシングを続けてくださるのだろうか?」そんな悩みをかかえている1人の歯科衛生士として、現在ブラッシング指導の際に大切にされていることを余すことなく症例とともにご紹介してくださいました。その中で患者さんの声を聞くことをTBIのスタートとして位置付け、その声を漏らさず聞き取り、客観的に情報を収集し、それを分析、評価し、仮説としてアウトプットし次回の患者さんの来院時検証する。そのサイクルを徹底的に行うことで質の高いTBIを提供している方だな、という印象を強く受けました。言葉という情報の中から本質的なメッセージを捉え、それを元にTBIの戦略を構築し、実践していく傾聴能力と分析能力は素晴らしいものでした。

また、丸森先生はブラッシング指導を効果的にする食事指導のあり方、これからの課題として、過去ご自身の経験の中から築き上げたグルコースと炎症の関係性について、近年の論文とともにお話してくださいました。
3食きっちり食事を食べて間食を減らす。そしてショ糖の取りすぎは、まず炎症として口腔内に現れること。非常に勉強になり、明日からの臨床に生かせる学びのあるお話でした。

2022年10月30日「歯を残すための総合力をつける!口腔を診る、全身を知る、人を観る(後編)」のテーマのもと、第39回学術大会同様WEB(Live配信)開催は大成功の元幕を閉じました。
2023年は実開催できることを楽しみにしております。

報告者
神奈川県小田原市森井歯科医院勤務 森井浩太