午前の部

歯周治療における歯科医師と歯科衛生士のパートナーシップ

演者:Dr若林健史、DH児玉加代子、DH吉田弥栄
コメンテーター:Dr亀田行雄、DH安生朝子
午前は東京都渋谷区でご開業の若林健史先生と、そこで勤務する主任衛生士の児玉加代子先生、若手衛生士の吉田弥栄先生による、歯周治療における医院の取り組みについてのご講演があった。

児玉先生からは歯周基本治療からメインテナンスに至るまでの流れと、主任衛生士として医院全体のレベルアップの取り組み方についての解説があった。

吉田先生からは重度歯周疾患患者への歯周治療のアプローチとして細菌検査や抗菌療法を用いた症例の提示があり、会場からは細菌検査を行うタイミングについて等のディスカッションがなされた。

最後に若林先生から歯周治療の20年経過症例や根分岐部病変を有する症例などが提示された。20年経過症例では歯周治療から欠損に至るまでのストーリーが患者さんとの関わりを通して伝えられ、治療の背景にある医院と患者さんとの気持ちの繋がりを垣間見ることができた。

報告者 埼玉県川口市 かめだ歯科勤務 八代一貴

 

午後の部

歯科医師分科会
天然歯にこだわりたい!ー移植・再植の可能性ー

症例提示:Dr梅津修、Dr齋間直人
コメンテーター:Dr福西一浩
日に日に冬の匂いが深まる季節になりましたが、今年も日本臨床歯周療法集団会(JCPG)第32回学術大会が東京医科歯科大学M&Dタワーにて開催されました。今年も日々の歯科医療に熱意を持って取り組まれておられる先生方が参加された学術大会だったと思います。

さて、今大会のJCPGのコンセプトは「医院の総合力が歯を守る」でしたが、学術大会開催に先立ち、大会長の畑中秀隆先生からJCPGが学会でなく集談会と呼ばれる所以は、会場と演者の間で活発な意見交換を目的としていると、説明がありました。そのため、各演題に伴って行われたディスカッションは我々のような若手にとっても非常に興味深く充実した時間でした。

特に午後のプログラムであった歯科医師分科会においては「天然歯にこだわりたい」〜移植・再植の可能性〜をテーマにし、梅津 修先生、斎間 直人先生が移植・再植のケースをご呈示され、福西 一浩先生にコメントを頂き、最後に総括講演をしていただきました。そこでは、歯の欠損に対する選択肢の一つ「歯の移植・再植」がクローズアップされていました。歯の移植・再植は既存の治療法ではありますが、基礎医学の研究が進みその予知性が高くなったことから、適応の範囲内であれば患者さんの身体的・経済的負担が軽減できる有用な方法であるため、近年再評価されてきている治療方法です。講演中に発表された症例でも予後良好で、今後再び歯の移植再植が脚光を浴びる予感がいたしました。

最後に、医院の総合力を上げ歯を守るためには、日々、歯科医療に関わる全てのスタッフと患者さんが心を通わせ一丸となり治療に取り組むこと、かつ治療方法が多岐に及ぶ現代医学の中でこのような会を通じ歯科医師が技術的な引き出しを多くすることが、患者である国民への利益還元となり、さらには日本の歯科医療の未来をも明るく照らす一因になってくれことを望みます。

報告者 千葉県千葉市 諸隈歯科医院勤務 諸隈正和

 

午後の部

歯科衛生士分科会
関野塾 ー知識と臨床のリンクー

Assoc. Prof. 関野愉(日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座)
発表:DH川上庸子、DH徳高至徳奏、DH足利奈々、DH安田真奈美
コメンテーター:DH安生朝子
昨年から新たな企画として始まった、歯科衛生士の臨床と知識のアップグレードを目的とした関野塾が、今年も第2回目として継続して行われました。

集談会の意図として、塾長の関野先生、講演する衛生士の方々の一方向的な発表で終わるのではなく、参加者側からの活発な質疑をいただきながら、関野塾がより実りある学びの場になることを期待し、今年はコメンテーター兼ファシリテーターとして、歯科衛生士の安生先生のご協力をいただきました。

今回、発表した歯科衛生士の方々は地域、キャリア、医院の方向性も様々でしたが、真摯に日常臨床に取り組む姿勢がとても素晴らしく、悩みながらも、学びの場を求めて勉強会に参加したり、関野先生の書籍を調べたりと、分からないことをそのままにしたくない!という気持ちが伝わってくる衛生士の方々でした。

4名の発表内容から抜粋し、議題となったトピックをまとめますと以下の5つに集約されます。

咬合性外傷と垂直性骨欠損の関係性
歯周病の特徴である部位特異性
根分岐部病変へのサポート
SRP後に残る深い歯周ポケットに対するSPTはどのように考えるか
局所的に重度な歯肉退縮部位をどう考えるか
咬合性外傷と垂直性骨欠損の因果関係および歯周病の部位特異性
症例では、垂直性骨欠損のある歯にフレミタスがあったため、歯周治療と咬合調整を同時期に行っていたが、この話題になるとついつい思い出されるのが、最高顧問でありJCPG創設者であります岡本浩先生の言葉が浮かんでくる。「歯周病罹患部位に咬合性外傷が加わると、垂直性骨欠損に至ると考えるのは日本だけだよ。」歯の動揺は頬舌あるいは唇舌方向であるのに、骨欠損が隣接面に起こっている現症を考えると、原因と結果は結びつかなくなる。あくまでも歯根と歯根間距離があるケースにおいて、隣接に部位特異的に歯周病が進行した結果、垂直性に骨吸収が起こるのであって、根が近接していれば水平性に骨吸収するという概念を整理しなくてはならない。詳細は関野先生の著書「歯周病学の迷信と真実—P58,59,62,63,64,65」を参照していただきたい。また、動揺については、そのものが危険なわけではなく、それはあくまで疾患の結果である。咬合性外傷による病的な所見は、経時的に動揺度が増加してきた場合であって、その場合は咬合調整を行うが、歯周治療の全般に咬合治療が必要というわけではない。

SPTを継続しているが改善しない歯周ポケットにどう向き合うのか?
これは多くの歯科衛生士の方々にとって、日常臨床の一番の悩みではないだろうか?自分の技術不足なのか、あるいは、患者さんから歯周外科はしたくないという要望など、良好な結果の出せない現状に、困惑してしまう。外科をするかしないかは、患者さんの希望はさておき、担当歯科医師やその医院の歯周治療に対するコンセプトに左右するが、歯科衛生士として深い歯周ポケットおよびその患者さんとどのように向き合うのかが大切である。

歯肉縁下へのアプローチは適切か?
SPT中のプラークコントロールは十分か?
患者さんのモチベーションは維持できているか?
SPTの間隔はどうするか?
外科処置をしない場合の経過がどのようになるのか、患者さんと情報共有できているか?また術者自身もバイオロジックやEBMを理解しているか?
など、様々な知識と人と向き合う対応力が必要となる。また、ポケットは残ってもどのレベルをエンドポイントにするのかを整理したい。関野先生のコメントにあったように、ポケットが5mmでもBOPが無ければ、それは安定していると考えてよいということであった。(同著書 Chapter7 再評価、SPTを参照)

根分岐部病変の対処 (同著書P74,75参照)
関野先生の最初の言葉が印象的であった。「完璧に治せる方法があれば、僕も知りたいし、それくらい、分岐部病変の扱い方は難しいし、治療方法も確立されていない。」メンテナンスで経過を見るのか、歯根分割するのか、分割抜歯するのか、歯科医師の考え方にも左右するが、失活歯となり分割、補綴処置された後の経過を見ても、歯根破折や根面カリエスなどによるトラブルで、長期的に予後が良好に保たれている症例数は、論文的報告では多くはないようである。最近の関野先生の見解では、分岐部が残ったままでも、SPTによる歯周病の進行遅延をする方向性に趣を置いているとのことであった。

局所的な重度の歯肉退縮
歯肉退縮がなぜ起こったのか?退縮の原因は様々あるが、今回は全体的な歯周病の罹患状況から考察する視点を指摘いただいた。一見、なぜ局所的に重度な歯肉退縮が起きたのか?と考えると、頬側歯槽骨 (ボーンハウジング)がもともと薄い、あるいはほとんど無いという限定条件において起こりえるだろうと考えがちだが、関野先生のシンプルな考え方によると、全顎的に歯周病の罹患状況を診査し、歯肉退縮が他の部位にも生じているなら、重度の局所的歯肉退縮部位は、部位特異的に歯周病が進行した結果であるとコメントをいただいた。つまり、歯肉の厚さと高さの比率にはバイオロジー的な法則があり、ついそういったEBMと結びつけてしまいがちだが、まずは歯周病という基本的観点から診ることを忘れてはならないと感じた。また、全顎的な治療計画において、その歯は保存する価値がそもそもあるのか?という視点で考えると、歯の保存に固執する必要はないかもしれないというコメントもあった。

おわりに
質疑の活発化とまではならなかったものの、昨年の第1回目と比較し、実りある関野塾であったと感じている。この度、ご協力いただいた関野先生、安生先生はじめ、発表者の衛生士4名の方々に心から感謝申し上げます。そして来年度の第3回関野塾への更なる進化のために、実行委員としての経験を生かしていきたい。最後に、安生先生の言葉がとても印象的でした。「私がなぜこれほど長く歯科衛生士を続けてこれたのか?それは、私たち歯科衛生士は歯周病を治せるんです!そういう力があるんです!」歯周病に限らず、歯科医療にとって、歯科衛生士の存在は不可欠であり、とても使命感のある仕事である。そんな大切な歯科衛生士をバックアップすることが、JCPGの存在意義の一つでもあるのだ