午前の部

Intelligent Periodontology –最新病因論に基づいた診断・治療・生涯マネージメント

演者:Prof.天野敦雄(大阪大学大学院歯学研究科予防歯科学教室)
コメンテーター:Dr亀田行雄

日増しに寒さが身にしみるようになってきましたが、今年も日本臨床歯周療法集談会(JCPG)第33回学術大会が東京医科歯科大学 M&Dタワーにて開催されました。

今年のメインテーマは昨年、一昨年に引き続き「歯を残せる歯科医院を目指す!」です。加えて「EpisodeⅢ 歯周治療のゴールとは?」と副題が設けられていました。大会委員長の畑中秀隆先生から今回のテーマは〝患者の歯周治療のゴール〟、〝術者の歯周治療のゴール〟を再確認し、患者と術者が共にtotal win の関係を築くための一翼になればと説明がありました。この会は学会ではなく集談会です。ディスカッションで参加することで我々若手も非常に良い刺激を受けました。

さて、午前のプログラムは、大阪大学予防歯科学分野 天野敦雄教授による21 世紀の歯周治療のための最新病因論に基づく様々な情報をご教授いただきました。歯周病から患者をいかに守り、管理していくための最新病因論です。人の一生の細菌叢は不変のようで、いかに高病原化の高い細菌を増やさないようにするかお話していただきました。また講演終盤では3人のプレゼンターに症例報告とディスカッションが行われました。小林剛志先生は細菌検査に関すること、安生朝子先生は薬物による歯肉増殖症のこと、清水雅雪先生は20世紀の歯科診療との対比でディスカッションしました。

最後に歯を残すべく、歯科医療に携わっている人全てが日夜努力しています。患者と術者のtotal winはどこにあるのか、最新情報と共に新しい歯周治療の目標(ゴール)を模索し、常に構築していかなければと考えさせられました。

報告者 埼玉県川口市 かめだ歯科医院勤務 久保寺 理人

 

午後の部

歯科医師分科会
根分岐部病変へのアプローチ

症例提示:Dr神山剛史、Dr畑中秀隆、Dr根本亨
コメンテーター:AP辰巳順一、Dr亀田行雄
総括講演:Assoc.Prof.辰巳順一
2016年11月6日、爽やかな秋晴れの中、第33回日本歯周療法集談会学術大会(JCPG)が東京医科歯科大学M&Dタワーにて開催されました。今年の参加者は300人を超え、JCPGならではの活発なディスカッションもおおいに盛り上がりました。

午前の天野教授のご講演、お昼のポスター発表に続き、午後は歯科医師、歯科衛生士それぞれの分科会が行われました。歯科医師分科会のテーマは「分岐部病変へのアプローチ」で、JCPG会員から神山剛史先生、谷本亨先生、畑中秀隆先生の3名が発表され、総括として最後に明海大学歯周病学分野準教授である、辰巳順一先生よりご講演いただきました。おそらく多くの歯科医師、歯科衛生士が頭を悩ませているであろう分岐部病変。私を含め、多くの方が分岐部病変を克服すべく講演に聞き入っていました。

神山先生は矯正を含めたフルマウスのケースのなかで、上顎6,7のⅡ度分岐部病変に再生療法を行った経過を報告されました。極めて難易度が高いと思われる上顎の近遠心の分岐部に対し非常に美しい手術を行っており、レベルの高さを感じることができました。

畑中先生はフルマウスのケースの中で、垂直性骨欠損には再生療法を適応しつつも上顎の分岐部病変に対しては積極的な治療介入をあえて行わなかったケースを報告されました。分岐部病変への再生療法の適応症を注意深く考察しており、歯周外科のスキルレベルの高さとともに、診断力の高さを感じることができました。

谷本先生は下顎6番のⅡ度分岐部病変に対し再生療法を行った2症例を報告されました。2症例を比較したところ、治癒形態に若干の差を生じたことに対する考察を加えた内容でした。どちらの症例もⅡ度の分岐部病変をⅠ度に改善されており良好な結果でしたが、その予後をCT等で緻密に経過を観察し、予知性という面で予測がつかないことも多い分岐部病変を克服しようという熱い思いを感じました。

辰巳先生は分岐部病変の総論として、歯根の解剖学的特徴や周囲組織の構造などから分岐部病変の治療や診断がなぜ難しいのか、を解説して頂きました。それを踏まえたうえでの診断、適応症、用いる器具などを詳しく説明して頂きました。そのような診断の下、外科的対応を行った症例を数多く呈示されました。いずれも非常にきれいな手術をされており、分岐部病変を次々と治しているという印象でした。そのなかでも十分な再生が得られなかった症例と、極めて重度の症例への再生療法も呈示して頂き、分岐部病変を治癒へ導く糸口を感じることができました。またその一方で、自身の歯周外科の技術をもっと向上させなければならないことも感じました。

ディスカッションでは、世田谷区ご開業の種市良厚先生より、マイクロスコープとEr:YAGレーザーの使用により分岐部病変への再生療法の予知性を高められるのではないか、という意見がありました。最近では歯科用の内視鏡やCTデータから3Dプリンターで顎骨モデルを作る、などの私が学生だった頃には想像もできなかったような新たなテクノロジーも開発されています。今も昔も道具ありきの臨床などありませんが、日々腕を上げている臨床家たちの技術と新たなテクノロジーの融合で、我々が分岐部病変を克服する日も近いのではないでしょうか。

報告者 東京都品川区 品川シーサイド歯科 大藤竜樹

 

午後の部

歯科衛生士分科会
関野塾ー知識と臨床のリンクー最近の歯科衛生士事情

Assoc.Prof.野村正子(日本歯科大学東京短期大学歯科衛生士学科)
発表:DH山辺奈緒、DH徳松由佳子、DH田口幸子
コメンテーター:AP野村正子
座長:DH安生朝子
総括講演:Assoc.prof.関野愉(日本歯科大学生命歯学部歯周病学講座)
去る11月6日、東京医科歯科大学M&Dタワーに於いて第33回日本臨床歯周療法集談会 学術大会が行われました。

午後は昨年同様、歯科医師分科会・歯科衛生士分科会と称しそれぞれセッションが行われたましたが、歯科衛生士分科会についての模様を報告いたします。

現在、歯科衛生士の教育の最前線に立たれている野村正子先生に御登壇いただき、現状の歯科衛生士の教育事情や法的に歯科衛生士に任せて良い事・任せるべきではない事などのお話を頂きました。

その後は集大成の三年目となる『関野塾』として座長に安生朝子先生を据え、関野諭先生に日常臨床の疑問をプレゼンと共に歯科衛生士三名が発表する形式のセッションが行われました。

豊松さんは臨床歴4年目にして確かな知識と自らの成長へのモチベーションを武器に、勤務先院長と連携を密にしながら進めた重度歯周病患者への外科的アプローチを含む歯周治療の中で自らのSRP手技を見つめ直し、しっかりと考察もしており若手の歯科衛生士の良き手本になっていたのではないかと思われました。

山辺さんは臨床歴15年目の原点回帰として縁上プラークコントロールと患者モチベーションの維持についてのプレゼンでした。印象的だったのは患者本人の生活のバックボーンをより深くまで診ることで辿り着いたプラークコントロールの方法とモチベーションの向上。それと共に歯肉の炎症や歯石の付着に留まらない口腔内の細かな部分までを『よく診る』という姿勢でした。日々の臨床の中で常に診続け、考え続ける姿勢を持っていたからこそ見え始めたものがそこにあると感じました。

田口さんは、広汎性重度慢性歯周炎を治療した後に長期に渡りSPTを継続的に行っている患者のプレゼンでした。術技はもちろんの事、ですが 元々は歯周治療に対してのモチベーションが低く消極的だった患者を、必要不可欠であった外科処置をも患者自らが望み、治療後に遠方に引っ越したにもかかわらず往復三時間をかけて継続的にSPTに通うまでに対話を続け、信頼を獲得していった事が素晴らしいと感じました。

この三名の発表者に共通する事は、臨床に対しての熱と人間力ではないかと思います。

患者に各々の思いを伝え、寄り添い、共に治癒に向かって歩んでいく姿勢。三名の発表者皆さんから、そういった熱い思いが感じられました。そして、苦悩する事がありながらも仕事を楽しんでいる姿勢も垣間見え、拝聴していて非常に嬉しくもありました。

歯科医療はとかく、知識や技術にとらわれがちな仕事です。確かに、知識と技術の向上は必要不可欠だと思います。

ですが、やはり突き詰めれば人間と人間のコミュニケーションが大切であると私自身が日々痛感している矢先であったので非常に参考となりました。

最後に関野先生から多くの歯科衛生士が日々疑問に思っているであろう事について論文やデータを引用しながら分かり易く解説が為されました。もちろん、今年も安生先生と関野先生の絶妙な『掛け合い』も散見され会場は程よい熱気を最初から最後まで保ちつつ閉会となりました。

今回の歯科衛生士分科会において最も特筆すべきは発表者の年齢・ライフステージの幅広さではなかったでしょうか。

臨床歴はまだ浅いものの、歯科衛生士として最初の成長期を過ごしている、未婚でまだ若い豊松さん。臨床歴も長くなってきて、歯科衛生士としては中堅の世代に入って来ており、プライベートでは発表時に二人目のお子さんの出産を控えていた山辺さん。臨床歴もかなり長く、二人のお子さんを立派に育て上げ職場復帰し、臨床の最前線で活躍し続けている田口さん。

実際に体現している発表者により『歯科衛生士は一生続けて行ける仕事』という言葉を大いに実感できる場だったのではないでしょうか。

歯科衛生士の人材不足が叫ばれ続けて久しい昨今、こういった様々なライフステージでも臨床で活躍してくれている歯科衛生士が一人でも多く増えてくれることを願って止みませんし、今後もJCPGがその一端を担って下さることを期待したいと思います。

報告者 東京都昭島市 関歯科診療所 院長 関豊成